論文と盆栽

前回のエントリーで言及した論文は締め切り前に無事に提出。個人的にはあと一ヶ月と一万字ほどの余裕が欲しかったが、限られた日数と字数のなかで仕事をこなしていく能力を身につけるという意味ではよい勉強になった。

ひとつの論文をひとつの論文として書き上げる際にとりわけ重要なのは、何を書くかの選択ではなく何を書かないかの選択である。問題を極限まで絞り、論ずる対象を限定したうえで、その限定された問題設定のなかで論理を明晰に練り上げてゆく。たいてい、勉強したことや思いついたことにはある種の「愛おしさ」があるため、それらをすべて盛り込みたいと考えてしまう。だが、それよりも重要なのは、論理の道筋を限定したうえで、それを可能な限り秩序立ったものとして構成してゆくことである。

この意味で、論文を書くのは盆栽づくりに似ている。あらかじめその枝がどのように成長するかを見積もった上で、成長させるべきと判断した枝だけを残して他の枝は刈り取ってゆく。そして、残した枝は剪定を繰り返しながら丁寧に成形してゆく。枝を切ることは思いを切ることである。そして、思い切りのよい作品ほど美しい。